大津地方裁判所 昭和30年(行)2号 判決
原告 市川いゑ
被告 大津税務署長
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、被告が原告に対し昭和二十八年六月二十七日為したる昭和二十七年度の所得税更正決定及び昭和二十九年五月二十六日為したる昭和二十八年度の所得税更正決定はいずれも取消す。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として、
一、原告は大津市内に於て酒類販売業を営んでいる者であるが、昭和二十八年三月十六日昭和二十七年度の所得確定申告を、別表第一(イ)欄のごとく昭和二十九年三月十四日昭和二十八年度の所得確定申告を別表第二(イ)欄のごとくそれぞれ被告に為した。被告は右昭和二十七年度の確定申告に対し昭和二十八年六月二十六日別表第一(ロ)欄のごとき更正決定を為した。これに対し同年七月二十八日原告は被告に対し再調査請求をしたが、被告は同年十二月十一日理由なしとし棄却した。原告はこれを不服として訴外大阪国税局長に対し昭和二十九年一月九日審査請求に及んだが、これも亦認められず昭和三十年一月十七日棄却された。又昭和二十八年度の確定申告に対し被告は昭和二十九年五月二十六日別表第二(ロ)欄のごとき更正決定を為した。原告はこれを不服として同年六月二十六日被告に対し再調査請求をしたが、被告は同年八月二十一日理由なしとして棄却した。原告は更に訴外大阪国税局長に対し同年九月二十日審査請求したところ、一部理由ありとして更正決定の一部を取消し別表第二(ハ)欄のごとく決定した。
二、しかしながら原告は右各年度の容認されなかつた更正決定には承服し難く、以下の点について違法があると信ずるものでその取消を求める。
(一) 被告が原告の所得金額算出の基礎として主張する別表第三記載の事項のうち、収入の部欄は両年度分の不動産所得金額の点を除きその他の各欄の収入金額、支出の部欄は昭和二十八年度の仕入商品値引高、両年度の必要経費額及び量売減等商品の欠減金額を除きその他の各欄の支出金額がそれぞれ被告主張の各金額であることはこれを認める。右各除外部分はいずれも否認し、左記の如くであることを主張する。
(1) 不動産所得について。
被告主張の家屋のうち賃借人山村主悦、岡本英一、栗田千代、木村与太郎及び山岡三郎の各家屋は原告の母訴外市川とみの所有家屋であり、賃借人奥村タキ、滝岡鯉一、木村貞蔵、福井信太郎、内田一郎の各家屋は原告の長男訴外市川稔の所有であつて、原告は被告主張の各家屋の所有者ではなく、又被告主張の各賃料額は同人等が受領しており原告に帰属するものではないから原告の所得に加えらるべきものではない。
(2) 昭和二十八年度の仕入商品値引高について。
被告主張の一〇七、九一四円を原告が各仕入先より受領していることは認めるが、その趣旨は被告主張の如き仕入値引ではなく、現金買いの報償として受けたものである。
(3) 必要経費について。
昭和二十七年度分中人件費(給料)、水道光熱費のうち炭代、通信費、広告宣伝費、接待交際費、昭和二十八年度中公租公課、人件費、広告宣伝費、消耗品費、修繕費、交通運搬費がそれぞれ被告主張の額であることは認めるが、昭和二十七年度については、公租公課の額は組合賦課金以外の公租公課は被告主張の通りであるが、組合賦課金は六、八〇〇円であつて四、八〇〇円ではないから公租公課の合計額は一〇二、二八〇円である。水道料は一、二〇〇円、電燈料は二、〇〇〇円、修繕費は一七、〇〇〇円、消耗品費は四、五〇〇円であり、以上の他雑損三六、二二七円、諸雑費一〇、〇〇〇円の支払をしているので必要経費合計は二九〇、二五二円であり、昭和二十八年度については、電話等通信費は一三、五〇〇円、水道光熱費は四、二〇〇円、接待交際費は四五、五〇〇円、諸雑費(瓶の破損、傘、合羽代、年賀郵便印刷費、名刺代、籠代、火鉢代)等五六、一〇〇円であるから必要経費の合計は四〇八、〇〇〇円となる。
なお原告が昭和二十八年度に於ける消耗品費、修繕費、通信費、接待費について申告当初より再調査請求を通じ別表第三記載の額を主張していたことはこれを認める。
(4) 量売減等販売商品の欠減量について。
昭和二十七年度分の欠減額は九三、三四四円五〇銭であるところ、被告はこのうち一七、三一二円のみを認めたにすぎないので、その残余七六、〇三二円五〇銭は原告の損失として計上さるべきものである。又昭和二十八年度分の欠減額は二四八、〇四三円であるところ、被告はこのうち三三、九五〇円を認めたのみであるので、その残余二一四、〇九三円は原告の損失として計上さるべきものである。
なお欠減については、原告が被告に対し提出する月別酒類買受及販売石数申告書中に毎月の欠減石数を記載申告しており、係争両年度の年間欠減申告額は原告主張の額と一致し被告はこれを受理し承認していたものである。
と陳述した。(立証省略)
被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、原告主張事実中一記載の各事実はこれを認めるが、その余の主張事実はすべてこれを争う。被告が調査したところによれば、原告の昭和二十七年度分の総所得金額は金一、〇六六、一四一円五七銭であり、又昭和二十八年度分の総所得金額は金一、六八七、三三〇円八四銭であつて、いずれも被告が当該各年度分として為した更正決定額はこれらをむしろ下廻るもので被告の各更正決定には何等違法はない。而して被告が各年度につき為したる更正決定の算定基礎は以下の通りである。
原告はその確定申告に於て昭和二十七年度の総所得額を八三八、〇〇〇円、昭和二十八年度の総所得額を九六四、四〇〇円とそれぞれ計上している。しかしながらその算出の根拠は、物品出入帳なるものを基とし、期首の棚卸商品及びその年度中の仕入商品が全部売却されたときの売買益差を計算し、これより期末棚卸高に対する益差金額を差引いて算出した当該年度分の売上益差に雑収入を加算し、その合計より量売減等の欠減金額及び営業必要経費等を差引き、これに不動産所得金額を加えて前記の如き総所得額を計上したものである。元来正確な所得金額を計算する為には、商品の出入はもとより、金銭の出納及びその原因、債権債務の発生、消滅及びその原因等を正確に記録した商業帳簿を備えてこそはじめて為し得るところである。原告の右計算は正確に記録された商業帳簿によらず、単に前述の物品出入帳なるものを基としただけであつて、その計算内容は営業経費の一部に関してのみ証ひやう書類によつたことを認められるが、他の大部分は根拠のない推計による所得計算の域を出ないものである。益差計算についても商品の販売数量に一品当りの差益単価を乗じたにすぎず、その差益単価たるや特級酒一升入一本の差益額は六八円一〇銭(昭和二十八年度については価格改訂後の八九円三〇銭)なるに六七円六〇銭(昭和二十八年度については八九円)と誤算し、その他一級酒、二級酒、合成酒、味淋、本直し、焼酎、ビールの差益額についてもそれぞれ同様の誤算を為し、差益を寡少に評価している等到底確定申告記載の所得額を正当とは認められなかつたのである。被告の調査したところによれば原告の本件係争各年度の所得は別表第三記載如くであり、前記の如くこれを下廻る各更正決定を為しているのであるから、その額は少に過ぎることはあつても不当なものとは云えない。以下に別表第三に従つてその計算につき分説する。
(1) 商品売上高、仕入高、期首並期末の棚卸高について。
原告の酒類台帳、酒類買受販売石数の各月の申告書、仕入伝票及び仕入先調査、原告の申立等を参考として期首、期末の棚卸数量、仕入及び売上数量を各品目別に算出し、これに清酒等については酒類販売統制額表の仕入及び小売単価を、雑酒等については定価による仕入及び小売単価を乗じ、又清涼飲料、味噌、醤油などについても酒類同様に詳細検討して申立棚卸数量を勘案して期首期末の棚卸数量、仕入及び売上数量を捕捉し、それぞれの数量に仕入販売実例価格の単純平均単価を乗じてそれぞれ算出し、これら各商品の総売上高、繰越商品棚卸額合計、商品仕入額合計、年末商品棚卸額合計をそれぞれ別表第三のとおり認定した。
(2) 原告の雑収入(酒類利用分配金、空瓶売却高)について。
酒類利用分配金。原告は滋賀県酒類卸組合より、原告が昭和二十六年及昭和二十七年度中に同組合より仕入れた酒類に対し一升当り金二円の割合による同表記載の金員を仕入利用に対する利益分配金として各翌年度に歩戻しを受けている。
空瓶売却高。消費者より空瓶一本二十円で引取り、卸売業者へ一本二十八円で返納しその差益八円を原告が取得するが、原告は昭和二十七年度については空瓶三千三百二十九本を引取り二六、六三二円の収入を得ており、昭和二十八年度についてはその額は八三、四九〇円に及んでいる。
(3) 事業外収入(不動産所得、配当所得)について。
不動産所得。原告は左記各家屋よりの賃料を、昭和二十七年度は一七五、四八〇円、昭和二十八年度は二二九、八〇〇円挙げている。そのうちこれら各家屋に対する必要経費を控除した所得標準率五五%適用によれば、昭和二十七年度は九六、五一四円、同二十八年度は一二六、三九〇円の家賃収入を不動産所得として得ていることになる。もつとも左記家屋中賃借人奥村タキ、滝岡鯉一、木村貞蔵の各居住家屋は原告の亡父末吉名義に、福井信太郎、内田一郎の各居住家屋は原告の亡夫市川政二名義に、賃借人山村主悦、岡本英一、栗田千代、木村与太郎、山岡三郎の各居住家屋は原告の母市川とみ名義にそれぞれ公簿上なつており所有名義人が原告とされていないことは認めるが、資産の所有名義人と当該資産より生ずる収益の実質上の帰属者とが一致しないことは往々見受けられるところであり、かかる場合所得税法第三条の二の趣旨によつても実質上その所得の帰属者に納税義務を負わしむべきものであると解すべきである。原告は本件係争年度の各所得税確定申告書に於て自らこれら不動産の所得金額を五、〇〇〇円と申告している。
いまその所得の多寡は措くとしてもこの申告は原告の所有名義となつていないこれら不動産より生ずる収益の実質的所得者が原告であることを原告自ら表明している証左であり、しかも原告の母とみ及び長男稔は右各申告書によれば、いずれも所得がなく、扶養親族として原告の扶養控除を申請している事実が明らかである。原告は地方税の申告に於ても右両名を原告の扶養親族として扶養控除を申請している。而して各賃借人よりは原告が主宰する酒類販売店の屋号である「銭政」の営業用領収印を以て賃料を受領してきている。又長男稔は昭和十二年八月十七日生で本件係争年度当時は十五、六才の年少であり、稔自身がその不動産より生ずる収益を実質的に亨受していたとは考えられない。これら諸事実に徴して本件不動産所得の実質的帰属者を原告と判定したのである。
右側は昭和二十七年度
左側は同 二十八年度
大津市鍵屋町所在
賃借人
奥村タキ
一九、八〇〇円
二八、八〇〇円
同
〃
滝岡鯉一
二一、〇〇〇円
二五、八五〇円
大津市船頭町
〃
木村貞蔵
一八、〇〇〇円
二七、〇〇〇円
大津市鍛治屋町
〃
福井信太郎
二〇、四〇〇円
二六、四〇〇円
同
〃
内田一郎
二二、八〇〇円
二五、八〇〇円
大津市鹿関町
〃
山村主悦
二六、四〇〇円
四二、〇〇〇円
同
〃
岡本英一
一二、〇〇〇円
一二、二五〇円
同
〃
栗田千代
八、六八〇円
九、三〇〇円
同
〃
木村与太郎
八、四〇〇円
一〇、八〇〇円
大津市中保町
〃
山岡三郎
一八、〇〇〇円
二一、六〇〇円
合計
一七五、四八〇円
二二九、八〇〇円
配当所得。滋賀県酒類卸組合より原告は昭和二十七年度は二、〇八〇円、同二十八年度は二、四四七円の配当を受けており、原告はこれを申告しなかつたが被告の調査の結果明らかとなつたものである。
(4) 仕入商品値引高について。
原告は昭和二十八年度に於て各仕入先より左記のとおり合計一〇七、九一四円の値引を受けている。
滋賀醤油卸販売株式会社 八、五一一円
株式会社大林商店 二一、五五一円
株式会社片木商店 二七二円
河金商店(下村幸次郎) 四〇、二二五円
株式会社前田豊三郎商店 二二、三八七円
株式会社丸岡屋 五、四〇二円
酒谷本店(酒谷一郎) 一五〇円
河原崎商店 八、四八〇円
牧真商店 八三六円
株式会社田辺宗商店 一〇〇円
以上の外その後の調査によれば原告は昭和二十八年度中に更に株式会社鷲谷商店より一、三〇四円、また右の河原崎商店より昭和二十八年三月九日に九七九円、右の株式会社丸岡屋より同年十月二十九日に三、二〇〇円のそれぞれ値引を受けていたことが判明し、同年度中の仕入商品値引高は前出の一〇七、九一四円に止るものでないことが明らかである。これによつても被告の認定が不当でないことは明白である。
(5) 必要経費について。
(イ) 公租公課。その内訳は次のとおりである。(右側は昭和二十七年度、左側は同二十八年度)
事業税
八〇、六四〇円。
九三、九六〇円。
固定資産税
一二、〇〇〇円。
二〇、〇〇〇円。
自転車等税
四四〇円。
二四〇円。
組合賦課金
四、八〇〇円。
七、〇〇〇円。
収入印紙
二、四〇〇円。
二、五〇〇円。
以上合計
一〇〇、二八〇円。
一二三、七〇〇円。
(ロ) 店員給料。原告の申告額四八、〇〇〇円及び八二、〇〇〇円を是認。
(ハ) 水道光熱費。昭和二十七年度電燈料金三、四一二円、昭和二十八年度四、一二二円のうち家事関連分として四〇%を控除の上二、〇四七円、二、四七三円、昭和二十七年度水道料金一、九六八円、同二十八年度二、一〇六円のうち家事関連分として六〇%を控除した七八七円、八四二円、昭和二十七年度炭代二、〇〇〇円、と認める。
(ニ) 通信費。昭和二十七年度電話料金九、五七八円、同二十八年度一四、三七五円のうち八〇%の八、二二四円、一一、五〇〇円を営業用と認め、郵券その他通信費を含めて合計一二、〇〇〇円、一二、五〇〇円と認める。
(ホ) 広告宣伝費。昭和二十七年度は広告代(開店祝として得意先へ使用したもの)二七、〇四五円、看板代三、〇〇〇円、合計三〇、〇四五円を、同二十八年度は五〇、〇〇〇円をそれぞれ原告申告どおり認めた。
(ヘ) 接待交際費。昭和二十七年度は得意先中元二〇、〇〇〇円、交際費五、〇〇〇円、合計二五、〇〇〇円、同二十八年度は中元歳暮用費二三、五〇〇円、交際接待費六、〇〇〇円、合計二九、五〇〇円を原告申告どおり認めた。
(ト) 修繕費。自転車、リヤカーの修理及び店舗修理として昭和二十七年度は一二、〇〇〇円と認め、同二十八年度は一一、〇〇〇円と原告の申告どおり認めた。
(チ) 消耗品費。昭和二十七年度は計量容器として二、〇〇〇円、その他の消耗品費として二、〇〇〇円、雑費として五、〇〇〇円、合計九、〇〇〇円を認め、同二十八年度は包装代三、〇〇〇円、氷代四、〇〇〇円、計量容器代四、〇〇〇円、事務用品費その他消耗品費として五、〇〇〇円、合計一六、〇〇〇円を原告の申告どおり認めた。
(リ) 交通運搬費。昭和二十八年度の交通費二、〇〇〇円、運搬費四、〇〇〇円、合計六、〇〇〇円を原告申告どおり認めた。
(ヌ) 諸雑費。昭和二十八年度の小切手取立料、その他諸雑費を一二、〇〇〇円と認めた。
(6) 量売減等販売商品の欠減について。
原告は昭和二十七年度の欠減額を九三、三四四円五〇銭と主張しているが、所得税調査担当官に対する原告の申立によれば、原告は毎月の売上石数及び盗難等の記憶を綜合して毎月の売上石数の二分乃至三分と見込んで欠減量を計算した旨申述べており、原告が被告に対し再調査請求したる際その添付書類として提出した欠減金額の内訳表(乙第三号証)によつても、右申立の如く売上石数に対する単なる達観的割合によつて欠減を計算したものにすぎない。しかも右内訳表による欠減と原告が本訴で主張する欠減とはこれ亦著るしく相違している。更に原告は所得税調査担当官に対し欠減量を売上石数に対する二分乃至三分と符合せしめる為毎月末には十日間程日々その受払記帳を止めて月末に於ける欠減量を決めてから符合するように記載する旨述べており、これによるも本訴に於ける原告主張の欠減がたとえ酒類販売石数申告書によつたものであるとしても、その記載根拠は事実に基かない憶測的胸算用に過ぎず信頼し得べからざるものであることが判る。しかしながら大津税務署管内における酒類小売業者の売上と欠減との比率を調査したるところによれば、欠減は売上の〇、一五乃至〇、二%ぐらいであつて、原告は再調査請求、審査請求当時主張していた欠減金額一七、三一二円は売上金額の〇、一三五%に当り、前記の一般的な欠減比率とも符合し結果的には妥当と思われるので、その申告の右欠減金額を是認したのである。昭和二十八年度の欠減額についても原告は酒類については二四八、〇四三円一七銭、調味料、清涼飲料については一五、〇〇〇円を欠減としているが、いずれも過大計上と認むべきであるので昭和二十七年度同様大津税務署管内の平均欠減歩合や酒類小売業者の実情等を勘案して総売上高に対する二%を相当と認め欠減金額を三三、九五〇円と認めた。
なお被告は原告より各月酒類買受及販売石数申告書を受理しており、それによれば本件係争両年度の欠減石数が本件に於て原告の主張するところと一致するものであることは認めるが、右申告書は酒税法の執行に当つて、酒類の需給状況の把握と酒税の保全の必要上酒類販売業者より任意に提出を求めているものであつて、その為税務署間税課に於て申告提出の慫慂並記載要領の指導をすることはあるが、不提出又は事実と相違する申告があつたとしても、これに対し勧告することがあるとしても、何等強制を加えることがない。かような趣旨のものに過ぎないから右の如く原告提出の右申告書と本訴で主張する欠減について一致するところがあり、且つこれを被告が受理しているからと云つてその記載内容を正当として承認したものと見られるべき限りではない。
と陳述した。(立証省略)
理由
原告が酒類販売業者であり別表第一及び第二の各(イ)欄記載の如く昭和二十七年度及び同二十八年度の確定申告を為したところ、被告は右同表各(ロ)欄記載の如く更正決定を為したこと、これに対し原告は再調査請求、大阪国税局長へ審査請求を申立てたが、昭和二十八年度につき別表第二(ハ)欄の如くその一部を容認された外、その余はいずれも棄却されたこと並に所得以外の諸控除が本件各更正決定の通りであることは当事者間に争がない。
被告は別表第三記載の如く、原告の所得は昭和二十七年度については一、〇六六、一四一円五七銭、同二十八年度については一、六八七、三三〇円八四銭であるから、被告の更正決定昭和二十七年度九三一、六〇〇円、同二十八年度一、二五七、〇〇〇円(審査決定額)はいずれも右を下廻り何等違法はない旨主張するので、以下係争両年度の所得額について検討する。
別表第三中、係争両年度の不動産所得、昭和二十八年度の仕入商品値引高、両年度の必要経費及び量売減等による商品欠減額を除いてはその他の各費目金額につき同表記載のとおりであることは当事者間に争のないところであるから右各除外部分について順次検討を加える。
(1) 不動産所得について。
被告が本件決定の対象としたその主張家屋がいずれも原告名義で登記されていないことは当事者間に争なく、賃借人奥村、滝岡、木村貞蔵、福井、内田の各居住家屋が原告の長男市川稔の、その余の賃借人居住各家屋が原告の母市川とみのそれぞれ所有であるとの原告主張事実は被告に於て明らかに争はないところであるから、これを自白したものと看做す。従つてこれら不動産よりの収益はその所有者たる稔及びとみの所得と一応推認すべきところ、成立に争のない乙第四、第七、第十二号証によれば、原告は母とみ、長男稔等と同居しており、これらの者を扶養し酒類小売業を営んで生計を主宰していること、本件係争両年度の所得税確定申告に際しこれらの者には何等所得なしとして扶養親族としての控除申請を為し且つ本件各不動産よりの所得を各年度五、〇〇〇円として申告し、自ら所得の実質的帰属者が原告であることを表明していることが認められる。かように不動産所得を原告名義で申告し、母及び長男を無所得者として扶養控除の申立をすることは或はそのような形式を藉りて所得課税の軽減を図らうとしたものであるとの見方もなし得ないでもなかろうが、本件各申告当時母とみは六十余才の老令で、長男稔も十四、五才の年少であること成立に争のない乙第十二号証によつても明らかであり原告の主宰する生計の同居被扶養者として、右の如き原告の申告にも拘らずなお本件各不動産よりの収益が家計とは関係なく、これらの者のみの収益するところと見ることは大いに疑問としなければならない。成立に争のない乙第十六号証によつても、原告は母とみ名義を以て滋賀銀行と普通預金取引を為し、これより営業資金に当てている形跡が窺われる。これらを考察すれば本件各不動産よりの収益を実質的に収受する者は原告であると見るべきが正当である。右認定に反する証人市川とみの証言及び原告本人尋問の結果は遽に措信し得ない。本件不動産所得が被告主張の額であることは原告に於ても認めているところであるから不動産所得の実質的帰属者たる原告に対して為した本件決定は違法とは云えない。
(2) 仕入商品値引高について。
原告が昭和二十八年度の商品仕入について被告主張の一〇七、九一四円を仕入先より受領していることは争のないところである。原告は右金員は現金買付の報償として受領したもので値引ではない旨主張しているが、商品仕入に関して受けたる右金品は実質的に仕入商品の値引と異るところがないのであるから、これを値引として計上することはこれに反する格別の事由の見られない限り正当としなければならない。而して本件に於てこれを不当と認むべき事由は存しない。
(3) 必要経費について。
必要経費中昭和二十七年度の公租公課、水道光熱費(但炭代を除く)、修繕費、消耗品費、昭和二十八年度の通信費、水道光熱費、接待費、雑費以外の諸経費が別表第三記載の通りであることは原告の認めるところである。そこで右争ある諸経費及右同表の外に原告が主張する昭和二十七年度の雑損、諸雑費について考察する。
(イ) 昭和二十七年度公租公課のうち組合賦課金を除けばその余が被告主張の通りであることは原告に於ても認めているところである。成立に争のない乙第八号証によれば原告が所属する大津小売酒販組合に対する昭和二十七年度の賦課金支払額は四、八〇〇円であることが認められる。而してこれに反する証拠は存しないから同年度の公租公課合計は被告主張の如く一〇〇、二八〇円を正当と認むべきである。
(ロ) 水道、電燈料。成立に争のない乙第一、二、十、十一号証によれば、昭和二十七年度の原告の水道料は一、九六八円、電燈料は三、四一二円、昭和二十八年度の水道料は二、一〇六円、電燈料は四、一二二円であることが認められる。右のうち水道料について六〇%を家事使用分として除外し四〇%に当る七八七円、八四二円を、電燈料について四〇%を家事使用分として除外し六〇%に当る二、〇四七円、二、四三七円を各事業用使用分として計上したとの被告主張は、事業用使用割合につき格別不当とも思料されず又他に準拠すべきものの存しない本件に於ては正当と認められる。
(ハ) 修繕費。被告計上の自転車、リヤカー及び店舗の修理費一二、〇〇〇円は原告の営業規模等に則して必ずしも不合理な額とも見られず、昭和二十八年度の修繕費一一、〇〇〇円(この額は原告が申告当初より再調査の請求を通じ主張していた額で当事者間に争がない)と比するも近似し不当とも云えない。これに反し原告は一七、〇〇〇円を主張するがその内容につき具体的な主張を伴わず又証拠も存しないので原告主張金額は直ちにこれを認めることを得ない。
(ニ) 昭和二十八年度通信費。成立に争のない乙第九号証によれば、原告の電話使用料金は一四、三七五円であることが認められ、その二〇%を家事使用分として除外し八〇%に当る一一、五〇〇円を事業用使用分として認め、これに郵券その他通信費を含めて合計一二、五〇〇円と計上したことは、昭和二十七年度の通信費一二、〇〇〇円(この額は原告が申告当初より再調査請求を通じ主張していた額で当事者間に争がない)に比するも不合理な金額とは認められない。原告主張の通信費一三、五〇〇円について本件証拠上これを認め得べきものなく、確たる根拠に基くものと認められないので被告主張金額を正当と推認すべきである。
(ホ) 昭和二十八年度接待交際費。
被告は中元歳暮用費二三、五〇〇円、交際接待費六、〇〇〇円合計二九、五〇〇円を認めているに対し原告は四五、五〇〇円を主張するが、昭和二十七年度接待交際費二五、〇〇〇円(この額は原告の申告当初よりの申立額を認容したもので当事者間に争がない)に比し被告認定額は当を得たところと思料されるに反し原告主張額は右前年度額を著るしく上廻るものであつて、その根拠につき何等明確な主張立証も存しないからこれを認めるを得ない。
(ヘ) 消耗品費、雑損、諸雑費。
被告は昭和二十七年度の消耗品費として計量容器費二、〇〇〇円、その他の消耗品費二、〇〇〇円、雑費五、〇〇〇円合計九、〇〇〇円を認めている。原告は消耗品費としては四、五〇〇円を主張し、その他別表第三に掲記されていない雑損三六、二二七円及び諸雑費一〇、〇〇〇円を必要経費として計上さるべき旨主張するが、右雑損並諸雑費は如何なる内容を持つものであるかについて詳らかではないが、原告の右雑損並諸雑費が被告主張の消耗品費中の内訳以外のものとすれば、原告主張の消耗品費以上を被告は消耗品費として認めていることとなるのでこの点については争のないところと見られる。しかしながら原告主張の昭和二十七年度の右雑損並諸雑費はその根拠も明らかでなく従つてその主張の額についても遽にこれを認め得ない。被告に於ても原告の諸雑費支出を無視しているわけではなく、右消耗品費中にこれを計上しているのであるから、これを超えて主張の如き雑損、諸雑費なる支出があつたとするならばその具体的主張、立証を原告に俟つの外はない。この点に関し証人三浦清治の証言によれば協議官としての同証人の調査当時原告主張の雑損額中には別途に計上さるべき販売商品欠減額や交際費等の家事使用支出分などが含まれており、それぞれの科目に組替えた結果は雑損として計上すべき裏付資料がなく、その為に容認されなかつたことが窺える。昭和二十八年度諸雑費として五六、一〇〇円の支出をしたとの原告主張も、被告の認める一二、〇〇〇円程度を以て正当と推測されるところであつて、原告の営業規模等よりするも又必要経費中の他の費目との比較よりするも、その然る所以を原告の主張立証に俟つ外はない。よつてこれら費目についての原告主張はいずれもこれを認め得ない。
(4) 量売減等販売商品の欠減について。
成立に争のない乙第三、第五、第六、第十三、第十四号証並に証人三浦清治、初田政男、中村穏雄の各証言を綜合すれば、被告の認めた昭和二十七年度の欠減額一七、三一二円は原告自ら同年度分の欠減額として申告当初より主張し再調査請求に際しても書面を以て被告に対し右同額を申立ててきたものであつて、大津税務署管下に於ける酒類売上高に対する欠減高の割合が平均〇、一乃至〇、二%であり、原告主張の右欠減額の歩合が右平均欠減歩合に相当したので被告に於てこれを容認したこと、昭和二十八年度の原告申立欠減額は前年度に比し余りに過大な二四八、〇四三円で前記平均欠減歩合を著るしく上廻り且つその根拠に合理的なものを認め得なかつたので、これを平均欠減歩合の最高〇、二%の範囲で認め三三、九五〇円とし、これを超える額を容認しなかつたことが認められる。もつとも原告は被告に対し月別酒類買受及販売石数申告書を提出し、これに月別の欠減高を記載しそれによる本件係争両年度の各欠減高が原告が本訴に於て主張する欠減高と同額であることは被告も認めるところであるが、前記証人中村穏雄の証言によれば、右申告書はその記載事項の正否を税務官署に於て確認する目的を以て為されるものではなく、酒税法に基き酒類の需給状況調査、密造酒販売防止、酒類小売業免許附与の参考等の為に任意に業者より提出を求める趣旨のものであることが認められる。従つて欠減高の右申告が税務官署に受理されたことはその記載欠減高を正当と承認されたことを意味するものではないと見なければならない。
原告主張の欠減額についての原告本人尋問の結果は容易に措信し難く、他に前記被告認定欠減額を不当と見るべき証拠は存しない。
以上原告の主張はいずれもこれを認め得ないので本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 上坂広道 林義雄 石田登良夫)
(別紙省略)